LVアンシャンテ レクチャー

筋力に頼らず、身体全体の「チカラ」を利用する古武術に学ぶ身体介助法――岡田慎一郎さん[介護支援専門員・介護福祉士]

ご自身の介護現場での経験を基に岡田さんが、武術研究家・甲野善紀氏とともに開発した新しい身体介助法。
自分や相手の動きや体重を利用するため、介助する側、介助される側双方に負担が少ない優しい介助法です。

多くの介助者が身体を痛める

福祉施設で働く方やご家庭で介護に携わる方であれば、体の不自由な方を抱き上げたり、向きを変えるときの大変さは実感されていると思います。7〜8割の介助者が腰など身体に痛みを感じているという調査結果もあります。私は、10年間にわたって介護現場で働いていました。そんなある日、立ち上がり介助を行う際に、たまたま習っていたグローブ空手の「クリンチ」の技術を応用してみました。やってみると、小柄(55kg)な私でも楽に相手を立ち上げさせることができました。しかも介助を受けた方も「あまり負担を感じない」とおっしゃってくださいました。それから、格闘技のエッセンスを介助に生かすようになったのです。

古武術とは何か

その後、武術研究家の甲野先生がテレビで古武術の原理を生かした介助技術を紹介しているのを見て稽古会に参加し、古武術の身のこなしを学びました。

「古武術」とは、西洋文化が入ってくる前から日本にあった武術です。例えば、現在では歩くとき、手を元気に振るのが良い歩き方とされています。ところが、昔の人は着物を着ていたため、手を大きく振ると着崩れてしまいます。そのため、自然に手をあまり振らず、体幹もねじらない動きをしていたそうです。これが「ナンバ歩き」です。この動きの合理性や効果は、陸上競技などにも取り入れられています。

身体の「チカラ」を利用する

古武術の「チカラ」は、一般的な筋力中心の「力」とは異なります。古武術的発想では、「もともとあったのに気づかなかったチカラ」を有効活用することを目ざします。その「チカラ」とは、重力や身体の「構造」がもたらすものであったり、さまざまです。

簡単にいえば、筋力をアップさせるのではなく、効率的な身体の使い方、「チカラ」の生み出し方を工夫する、というのが古武術的発想の大きな特徴です。こうした古武術の「チカラ」を介助に取り入れればさまざまな場面でもっと楽に介助ができるはずです。すでにある介助法と併用しながら、無理のない範囲で少しずつ試してみてはいかがでしょうか。今回と次回(29号)の2回にわたって、日産LVを利用したいくつかの介助法をご紹介したいと思います。

1.座っている人を車いすに乗せる/※車いすはいすに対して約70度に配置
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[1]

自分の右足は、相手の足の間に入れても、外に出してもやりやすいほうでよい

[2]

相手の麻痺していない半身の脇(ここでは左半身の脇)に頭を入れ、右手を相手の背中に、左手は腰のあたりに回す。左手は手の甲から入れ、手のひらを返す。右手は人差し指と親指を立てる

[3]

右手の人指し指で、自分の背後を指差すようなイメージで、相手と一体となって立ち上がる

[4]

自分のお腹に相手を乗せようとするのではなく、誘導するようにして車いすに移動する。このとき自分の右ひざをいすの上に置き、相手を乗せる

[5]

かかえたままの相手を自分の右ひざの上をすべらせるようにして車いすに座らせる

2.車いすからスライドアップシートへの移動/※車いすはスライドアップシートの前方約70度で配置
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[1]

スライドアップシートを下降させ、その近くに車いすを移動する。相手の脇に頭を入れ、右手を相手の背中に、左手は腰のあたりに回す

[2]

自分の背中を意識し、体全体の「チカラ」を引き出すことで、相手と一体となって立ち上がる

[3]

右手の人差し指で自分の背後を指差すイメージで立ち上がり、スライドアップシートに移動する

[4]

自分の右ひざをスライドアップシートの上に置き、左手はシートのひじかけに置き、身体を支える

[5]

相手の体を自分の右ひざの上をすべらせるようにしてスライドアップシートに移動させる

3.スライドアップシートから隣のシートへの移動
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[1]

相手の脇に頭を入れ、右手を相手の腰のあたりに回し、左手は相手のひざの下を抱える

[2]

スライドアップシートの上に正座し、自分のひざの上に相手のお尻を乗せる

[3]

自分の左足を移動するシートの方に伸ばす

[4]

自分の左足の上を滑らせるように、隣のシートに移動させる

[基本動作]

動きがわかりやすいように、基本動作を1人で行ってもらいました

[岡田慎一郎さん]

おかだ・しんいちろう●1972年生まれ。高校卒業後、身体障害者、高齢者施設の介護職員を経て介護講師を務める。従来の身体介助法に疑問を抱く中、武術研究家・甲野善紀氏が説く古武術の身体操法に感銘を受け、以後師事する。2005年の朝日カルチャーセンターでの講座開講以降、新聞、雑誌、テレビ等多くのメディアにおいて独自の身体介助法と発想法を展開し、話題を集めている。著書に『古武術介護入門』(医学書院)がある。身長167cm、体重55kg。